50代からの生命保険料控除:賢く利用して税負担を軽減する方法
50代からの生命保険料控除:賢く利用して税負担を軽減する方法
生命保険は、万が一の事態への備えや老後資金の準備など、様々な目的で活用される身近な存在です。毎年の保険料の支払いは家計にとって負担となることもありますが、実は支払った保険料の一部は「生命保険料控除」として、所得税や住民税の計算時に所得から差し引くことができます。これは、生命保険の加入を促進し、自助努力による国民の生活安定を支援するための国の制度です。
50代になり、保険の見直しを検討したり、新たに医療保険や介護保険への加入を考える方もいらっしゃるかもしれません。この年代は、収入のピークを過ぎて税負担への関心が高まったり、将来への漠然とした不安から貯蓄や節税への意識が高まる時期でもあります。
本記事では、50代の方が知っておきたい生命保険料控除の基本的な仕組み、控除の種類、そしてどのように税負担が軽減されるのかについて、分かりやすく解説いたします。この制度を正しく理解し、賢く活用することで、家計の負担を少しでも和らげることにつながるでしょう。
生命保険料控除とは
生命保険料控除は、所得控除の一つです。1年間(1月1日~12月31日)に支払った生命保険料の金額に応じて、一定額をその年の所得から差し引くことができる制度です。所得から差し引かれる金額が大きいほど、所得税や住民税の計算対象となる所得が減り、結果として税金が安くなります。
この制度を利用するには、勤務先の年末調整やご自身での確定申告が必要です。毎年秋頃に保険会社から送られてくる「生命保険料控除証明書」を使って手続きを行います。
生命保険料控除の種類
生命保険料控除には、以下の3つの種類があります。ご加入の保険がどの種類に該当するかを確認することが重要です。
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一般生命保険料控除:
- 死亡保険や生存保険(養老保険など)、生死混合保険(終身保険や定期保険など)といった、死亡や生存に関わる保険が対象となります。
- 保険金受取人が、保険料を支払う本人またはその配偶者、その他の親族(6親等内の血族、3親等内の姻族)である必要があります。
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介護医療保険料控除:
- 2012年1月1日以後に契約した保険で、入院・通院等の医療費や、身体の状況に応じた介護に関する保険金・給付金が支払われる保険が対象です。
- 具体的には、医療保険、がん保険、介護保険(公的介護保険とは異なります)、終身医療保険などが該当します。
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個人年金保険料控除:
- 個人年金保険のうち、以下の要件をすべて満たすものが対象となります。
- 年金受取人が、保険料を支払う本人またはその配偶者であること
- 保険料の払込期間が10年以上であること
- 年金の受取開始年齢が満60歳以降であること
- 確定年金や終身年金の場合、年金の受取期間が10年以上であること
- 税制適格特約を付加している契約が該当します。
- 個人年金保険のうち、以下の要件をすべて満たすものが対象となります。
※2011年12月31日以前に契約した保険(旧制度の契約)については、後述するように控除の適用方法が異なります。
控除額の計算方法(新制度と旧制度)
生命保険料控除の控除額には、新制度と旧制度の2種類があり、ご契約の時期によって適用される制度が異なります。
- 新制度: 2012年1月1日以後に締結した保険契約に適用されます。
- 旧制度: 2011年12月31日以前に締結した保険契約に適用されます。
新制度では、「一般生命保険料控除」「介護医療保険料控除」「個人年金保険料控除」の3種類があり、それぞれ最大で所得税は4万円、住民税は2.8万円の控除が受けられます。合計の控除上限額は、所得税は12万円、住民税は7万円です。
旧制度では、「一般生命保険料控除」「個人年金保険料控除」の2種類のみで、それぞれ最大で所得税は5万円、住民税は3.5万円の控除が受けられます。合計の控除上限額は、所得税は10万円、住民税は7万円です。
また、新制度の保険と旧制度の保険の両方に加入している場合、合計の控除上限額は所得税が12万円、住民税が7万円となります(計算方法は少し複雑になります)。
以下に、新制度・旧制度それぞれの年間保険料に対応する所得控除額(上限額)の目安を示します。
【新制度の控除額目安】 (一般生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料、それぞれの上限)
| 年間支払保険料 | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 | | :------------- | :------------- | :------------- | | 12,000円以下 | 支払保険料全額 | 支払保険料全額 | | 12,001円~32,000円 | 支払保険料 × 1/2 + 6,000円 | 支払保険料 × 1/2 + 6,000円 | | 32,001円~48,000円 | 支払保険料 × 1/4 + 14,000円 | 支払保険料 × 1/4 + 14,000円 | | 48,001円超 | 一律 40,000円 | 一律 28,000円 |
【旧制度の控除額目安】 (一般生命保険料、個人年金保険料、それぞれの上限)
| 年間支払保険料 | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 | | :------------- | :------------- | :------------- | | 25,000円以下 | 支払保険料全額 | 支払保険料全額 | | 25,001円~50,000円 | 支払保険料 × 1/2 + 12,500円 | 支払保険料 × 1/2 + 12,500円 | | 50,001円~100,000円 | 支払保険料 × 1/4 + 25,000円 | 支払保険料 × 1/4 + 25,000円 | | 100,001円超 | 一律 50,000円 | 一律 35,000円 |
【計算例】
例えば、新制度の一般生命保険料で年間8万円、介護医療保険料で年間4万円を支払っている場合を考えます。
- 一般生命保険料(年間8万円):新制度の表より、年間支払保険料48,001円超に該当するため、所得税の控除額は4万円、住民税の控除額は2.8万円となります。
- 介護医療保険料(年間4万円):新制度の表より、年間支払保険料32,001円~48,000円に該当するため、所得税の控除額は4万円(支払保険料40,000円 × 1/4 + 14,000円 = 10,000円 + 14,000円 = 24,000円。ただし上限4万円なので4万円)、住民税の控除額は2.8万円(支払保険料40,000円 × 1/4 + 14,000円 = 24,000円。ただし上限2.8万円なので2.8万円)となります。
この場合、合計の控除額は以下のようになります。 * 所得税:一般生命保険料4万円 + 介護医療保険料4万円 = 8万円(上限12万円) * 住民税:一般生命保険料2.8万円 + 介護医療保険料2.8万円 = 5.6万円(上限7万円)
このように、複数の種類の保険に加入している場合は、それぞれの控除額を合算して、合計の上限額まで控除を受けることができます。
50代の生命保険料控除に関するポイント
50代という年代で保険料控除を考える際に、いくつか意識しておきたい点があります。
- 新制度と旧制度の確認: 2012年より前に加入した保険契約と、それ以降に加入した契約では、適用される控除制度や控除額の上限が異なります。ご自身の加入している保険契約がどちらの制度か、「生命保険料控除証明書」や保険会社の契約内容のお知らせなどで確認しましょう。旧制度の方が、一つの契約で控除できる上限額が大きい傾向にあります。
- 夫婦での契約: ご夫婦それぞれが保険契約をしている場合、保険料を支払っている方がそれぞれの契約について保険料控除を受けることができます。例えば、夫が夫名義の保険料を支払い、妻が妻名義の保険料を支払っている場合、それぞれが自身の保険料について控除を申告できます。どちらか一方の所得が高い場合など、家族全体の税負担を考慮して、保険料の支払者を調整することも考えられますが、契約者と保険料負担者が同一である必要があります。
- 控除証明書の管理: 毎年10月頃から保険会社から送られてくる生命保険料控除証明書は、年末調整や確定申告で控除を受けるために必須です。紛失しないように大切に保管しましょう。もし紛失した場合は、保険会社に再発行を依頼できます。
- 保険料控除の対象外となる費用: 保険料控除の対象となるのは原則として「保険料」ですが、特約保険料なども対象に含まれる場合があります。一方で、契約者貸付の利息や、契約内容変更時に発生する費用などは控除の対象外となります。控除証明書に記載されている金額を確認しましょう。
生命保険料控除の手続き:年末調整と確定申告
生命保険料控除を受けるためには、手続きが必要です。主に以下の2つの方法があります。
- 年末調整: 会社員や公務員の場合、多くは勤務先で行う年末調整で生命保険料控除を申告できます。例年11月~12月頃に行われる年末調整の書類に、生命保険料控除証明書を添付して提出します。
- 確定申告: 個人事業主やフリーランスの方、あるいは年末調整で申告し忘れた会社員の方は、翌年の2月16日~3月15日の間にご自身で確定申告を行う必要があります。確定申告書に必要事項を記載し、生命保険料控除証明書を添付して税務署に提出(またはe-Taxで電子提出)します。
控除を受けることで、所得税や住民税が軽減されるため、忘れずに手続きを行うことが大切です。
まとめ
50代からの保険選びにおいて、保険料控除は家計の負担軽減につながる重要な制度です。ご自身の加入している生命保険がどの控除の種類に該当するか、新制度・旧制度のどちらが適用されるかを確認し、支払っている保険料に応じて年間いくら控除される可能性があるのかを把握しておきましょう。
毎年送られてくる生命保険料控除証明書を大切に保管し、年末調整や確定申告で忘れずに申告手続きを行うことで、税負担を軽減することができます。保険契約は将来への備えであるとともに、税制上の優遇措置もあることを理解し、賢く活用していくことをお勧めします。
ご自身の保険契約内容や保険料控除についてご不明な点がある場合は、加入している保険会社や税理士などの専門家に相談してみるのも良いかもしれません。